値上げしたいけれど、お客様が離れるのが怖い。決める前に確認したいこと

「今の価格では、手間に見合わない」「仕入れや人件費が上がって、利益が残りにくくなった」。そう感じていても、長く付き合っているお客様に値上げを伝えるのは勇気がいります。
断られたらどうするか。競合に移られないか。売上が落ちても大丈夫か。判断を進めるには、その不安を「何を確かめれば決められるか」に置き換えることが役立ちます。採算、お客様に選ばれている理由、変更の選択肢を順に整理しましょう。
この記事の目次
まず、どの仕事に利益と時間が残っているか
同じ売上でも、仕入れや外注、追加対応の負担が違えば、残る利益は変わります。会社全体の数字に加え、代表的な商品や取引をいくつか選び、販売価格・数量・販売に伴って増える費用・対応時間を並べてみてください。
そのうえで、お客様が自社を選ぶ理由も確認します。対応の速さ、品質、専門性など、どの価値を届けているのでしょうか。価格を考える際には、原価とお客様が受け入れる価値の両方を見る必要があります。中小機構「価格設定の考え方」も、原価・需要・競争の観点を扱っています(確認日:2026年10月9日)。
所長の見解 — 競合とのバランスと、選ばれる理由を見る
私が値上げの相談で最初に見るのは、競合と比べた価格のバランスと、その価格でもお客様に選ばれるかどうかです。判断の分かれ目として気になるのは、顧客離れを極度に恐れると、現状維持のまま経費削減などに意識が向いてしまうことです。だからこそ、競合との価格バランスと、値上げ後も選ばれるかを確かめることを大切にしています。
檜垣昌幸/おまかせTAX 代表税理士・TOSS合同会社 代表社員
売上が減る場合も、数字で比べる
販売価格が1万円、1件売るごとに増える費用が6,000円の商品を考えます。以下は説明用の架空例で、金額はすべて税抜です。
| 現在 | 値上げ後の想定 | |
|---|---|---|
| 販売価格 | 10,000円 | 11,000円 |
| 販売数量 | 100件 | 90件 |
| 売上 | 100万円 | 99万円 |
| 数量に応じて増える費用 | 60万円 | 54万円 |
| 固定費を払う前に残る額 | 40万円 | 45万円 |
この条件では、販売数量が10%減っても、固定費を払う前に残る額は5万円増えます。では、何%減ると現在と同じになるのでしょうか。
棒の長さは0〜50万円の共通目盛りで比較
- 値上げ前:100件40万円
- 値上げ後:90件45万円
- 値上げ後:80件40万円
同じ架空例の限界利益。90件なら5万円増え、80件なら値上げ前と同額です。固定費は同じという前提です。
何%の数量減まで、値上げ前の利益を維持できるか
1件あたりの変動費と固定費が変わらない場合、値上げ前と同じ利益を維持できる数量の減少率は、次の式で求められます。変動費は、販売数量に応じて増減する仕入れ・材料・外注などの費用です。
= 値上げ額 ÷(値上げ後の価格 − 1件あたりの変動費)
1,000円 ÷(11,000円 − 6,000円)= 0.20 = 20%
現在100件なら、20%減った80件で同じ額になります。1件あたり5,000円が残るため、5,000円 × 80件 = 40万円。現在の4,000円 × 100件 = 40万円と一致します。
この20%は、販売数量の減少率です。顧客数や売上の減少率とは区別してください。仕入れ条件や固定費が変わる場合、複数の商品構成が変わる場合は、条件を入れ直して比べます。値上げ後の価格が変動費を上回ることも、この式を使う前提です。
また、利益を維持できても、入金の時期や借入返済によって資金が不足する可能性があります。この計算とあわせて、月ごとの資金の見通しも確認します。
値上げ以外の選択肢も並べる
利益を残す方法には、サービス内容や取引条件の見直しもあります。基本サービスと追加対応を分ける、急ぎの対応や少量注文の条件を変える、利用頻度に合わせてプランを分ける、お客様が必要としていない作業を減らす、といった案です。
変更した場合、お客様にとって何が変わるかまで考えます。何が便利になるのか、何が別料金になるのか、品質をどう維持するのか。それぞれの案を、利益と実行の負担で比較しましょう。
最初に確かめる相手と、見直す条件を決める
実施前に既存契約の条件や更新時期を確認し、誰に何を伝えるかを決めます。関係の深いお客様に変更案への意見を聞く、新規の見積りから条件を見直すなど、自社の状況に合う進め方を選びます。
| 決めておくこと | 架空の記入例 |
|---|---|
| 担当・期限 | 営業責任者が月末までに説明する |
| 確かめる相手 | 既存顧客3社に変更案への意見を聞く |
| 見る数字 | 受注率、販売数量、残る利益、対応時間 |
| 次の判断 | 翌月の結果を見て、条件や説明を修正する |
断られた場合も、価格そのものが理由なのか、説明が足りなかったのか、サービス内容が合わなかったのかを確かめれば、次の判断材料になります。
目指すのは、御社の採算と価値を確認し、「この条件なら進める」と社長が言える判断です。
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